大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和24年(を)2677号 判決 1950年6月08日

被告人

山崎実

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

弁護人の控訴趣意第二点について。

弁護人は原判決は証人灰谷一夫の証言を証拠に掲げているが、伝聞の証言であるからかかる証言によつて被告人を有罪とすることはできないと主張する。けれども右証言は原審公判における供述であるからたとえ伝聞にかかる供述であつても、刑事訴訟法第三百二十四條第二項によつて同法第三百二十一條第一項第三号の要件を具備する場合は証拠として差支えないのである。而して右供述は氏名不詳者の供述を内容とするものであつて、且つ同人が灰谷方で右供述をしたのは進駐軍のズボンを売りに来た際に行われた談話であり他の信用し得る証拠にも合致するものであるから、同條項第三号の所在不明のため公判期日において供述することができず、その供述は特に信用すべき情況の下になされたものであることが明らかである。而して右供述は被告人の自白の補強証拠として犯罪の存在の証明に欠くことができないものと認められるから論旨は採用できない。

(弁護人の控訴趣意の第二点)

証三の証人灰谷一夫の供述は、その供述中

問 証人は本年二月頃山崎実から進駐軍物資を買入れた事がないか

答 氏名不詳の顔見知りの人から私方に来まして山崎実から進駐軍物資である「ズボン」を百枚か百二十枚を買つたのであるが、その残りが二枚あるので一枚二千五百五十円の割で二枚買つてくれないかというて現物を持つて来ましたが、私は金がないといいますと、置いておくからよかつたら買つてくれといつて行つた事がありますが、山崎から買つた事はありません

私方へズボン二着を持つて来た男は私方に来たときにこれから山崎方へ「ズボン」代金を支拂いに行くのだといつて一万円の札束を多く持つておりました

問 ズボンを証人は見たか

答 黒い風呂敷に包んでありましたが寝る時に見ました。私がその「ズボン」を見る迄に神戸水上署の村田巡査部長が聞込みに来られました

この証拠では

証人灰谷の言は氏名不詳の人の話で、その人が山崎から買われたということを聞いただけである……別人証人が取引を見たものではない。しかも「ズボン」は見たように曖昧の証言をしているが、全部見たというなら嘘である。何となれば証人方に氏名不詳の者が二枚残りを売りに来たといつているのではないか。残りというは他は皆処分済みを意味するからである。該証人は山崎を村田巡査部長に密告しているから色々といわねばならぬようになり辻褄の合わぬ事をいうに過ぎない。一つとして山崎直接の事の証言はない。氏名不詳の人のいう事、即ち伝言の証言である。

之を以て人を罰することは出来ない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例